宝石商Mr.T―2 [石]
Mr.Tが宝石商として、まだ駆け出しの頃、
宝石の師匠として慕っていたMr.Wと言う男がいた。
Mr.Wは日本のルビー王と呼ばれ、ミャンマーやタイに
ルビーを買い付けるため、足繁く通っていた。そのころのMr.Wの話。
タイのチェンマイより、北へ180kmの町メイサイ。
メイサイは、タイ・ラオス・ミャンマーが国境を接する、
ゴールデン・トライアングルにある、タイ最北の町で、
ミャンマー産の良質なルビーが、山を越えて集まる、ルビーの町でもあった。
Mr.Wはルビーの買い付けも終わり、宿で一夜を過ごしていた。
夜中に、変な日本語で「トヨタ!キッコマン!トヨタ!キッコマン!」と叫び、
ドアーを激しくノックする者がいた。
「こんな夜中にだれだろー?」とドアーを開けると、そこにはピストルを構えた強盗がいたのだ。
パンツ一枚だけ許され、後はすべての物を、持ち去って行った。
ルビーより命!ほうほうの体で、日本に逃げ帰った。
いまでも、このゴールデン・トライアングルでは、ルビーやアヘンを巡り、
血なまぐさい事件があるそうだ。
そのMr.WとMr.Tが始めてタイに、ルビーを買い付けに行った。
Mr.Wは現地に着いても、なかなか買い付けには、連れて行ってくれず、
ホテルのプールで肌を焼いてばかりいる。
「なぜだろー?」と思ったが、理由は後で判った。
肌が白いままで商談すると、足元を見られ、軽くあしらわれる。
肌を焼いて、手馴れた、手ごわい相手と思わせることだった。
Mr.TはMr.Wから、宝石の事や人生の生き方まで、
色々な事を学んだそうだ。
郷に入っては、郷に従え。
タイでは、片目の国では、片目を閉じよ。
『宝石の取引の前には、必ず肌をこんがりと焼くべし。』
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