楓橋夜泊(ふうきょうやはく) [漢詩]
続けて秋にふさわしい漢詩です。唐の詩人『張継』作、【楓橋夜泊・ふうきょうやはく】。
初句の『月落ち、烏啼いて、霜、天に満つ』はあまりにも有名。
姑蘇城は今の蘇州の町。楓橋は南北往来の要衝の地であったらしい。
秋の深い旅情を感じるこの詩は、古来多くの人に愛されている。
月落ち 烏啼いて 霜天に満つ
江楓(こうふう) 漁火 愁眠に対す
姑蘇城外 寒山寺
夜半の鐘声(しょうせい) 客船(かくせん)に到る
月が沈み鳥が鳴いて、冷たい霜の気が満ちわたる。
川岸の楓の間には、漁火が点々として、旅愁のために眠れないでいる私。
蘇州の町の郊外にある寒山寺の鐘の音が、
旅を続けてきたこの船の中にまで聞こえてくる。
山行 [漢詩]
秋にふさわしい漢詩、【山行】。唐の詩人杜牧(とぼく)作。
遠くを眺めると白雲の白さ、目を近くに転じると、霜にうたれた楓の紅色。まるで絵画を見ているような作品。
坐愛(そぞろに愛す)とは、去るに去れず茫然と立ち尽くす様を表している。大好きな秋の詩。
遠く寒山にのぼれば 石径斜めなり
白雲生ずる処 人家あり
車を停めて坐(そぞ)ろに愛す 楓林の晩(くれ)
霜葉(そうよう)は 二月の花よりも紅なり
はるばる遠く、ものさびしい山に登ると、石の多い山の小道は、斜めにつづいている。
かなたの白雲のわき上がっているあたりに、人の住む家が見える。
山かごを停めて、そのままうっとりと、楓の林の夕暮れを眺めると、
霜にうたれて色づいた葉が、春の盛りに咲く桃の花よりも、
その紅の色が鮮やかであった。※旧暦の二月
元旦 [漢詩]
正月にふさわしい漢詩を紹介します。北宋の詩人・王安石の作。
◎爆竹せいちゅう一歳除す。春風暖を送って屠蘇(とそ)に入る。
千門万戸とうとうの日。すべて新桃をとって旧符に換う。
◎爆竹の音が賑やかにして、年が明けた。春風が暖気を送って屠蘇の中へと入り込む心地。
都の家々に初日の光りが射し込む下、古いお札に換えて、桃の画を描いた新しいお札が、戸口に張り出され新年を祝う。
※旧暦では正月から春になる。その春の暖かな気分で、一家そろって屠蘇を飲む。
元日に屠蘇を飲めば、病気を取り去るという、唐代から始まった風習で、わが国にも早くから伝わったとされる。
中国では、古くから古いお札に換えて、桃の画(桃の絵は邪気を払うおまじない)を描いた
新しいお札を、家の戸口に張り出して新年を祝っていたそうだ。
春暁 [漢詩]
唐の詩人【孟浩然・もうこうねん】作。起句は有名。ものうく気だるい、春の朝の気分をうたっている。
春眠、暁をおぼえず。しょしょ啼鳥(ていちょう)をきく。
夜来、風雨の声。 花、落つること、知る多少ぞ。
◎ここちよい春の眠り、明け方も気づかないまどろみの中、
あちこちの鳥のさえずりが、枕辺にとどく。
昨夜の風まじりの春雨の音からすると、
花はどれだけ庭に、散り敷いていることであろか?